日射量の長期トレンドは今後どうなる?(2)
前回のブログ
日射量の長期トレンドは今後どうなる?(1)
の続きです。
日射量が長期的に増加傾向である理由について、ネット上でいろいろ調べていたところ、有用と思われる資料を見つけました。
日本太陽エネルギー学会 の学会誌に掲載された「国内の日射量変化について 」という研究論文です。
この論文では、日本国内の日射量が近年増加している事象について、いろいろ検証した結果が書かれています。
ポイントを順に書くと、
1.太陽定数
太陽の放射の強度が変化しているか否かについては、約11年周期の太陽活動によるわずかな増減はあるが、その変化は1%に満たないので、日射量増加の原因ではない。
2.地域の差
関東や近畿の都市部では日射量の増加が大きく、北海道では増加が小さい。
3.季節の差
日射量の経年変化に関して、季節の差はあまり見られない。
4.日照時間
日照時間は平均的にはほとんど変化していない。日射量増加の要因ではないと考えられる。
5.雲量
雲量は経年的に増加傾向で、日射量増加の原因ではない。
6.水蒸気量
大気中の水蒸気量(絶対湿度)も増加傾向で、日射量増加とは関係なさそう。
7.浮遊粒子状物質(SPM)
大気中のSPM濃度は減少してきており、日射量の増加傾向とよく対応している。
SPM濃度が減少したことにより、日射量が増加したと言えそう。
8.気温
気温は上昇してきているが、その上昇パターンは日射量増加傾向とは違う。
ということで、大気中の浮遊粒子状物質(SPM)が、日射量増加の原因と言えそうだとしています。
「SPM」は、大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径10μm以下のもので、工場や自動車などから出る排気ガスや、土壌や火山などから出る粉じんなどがあります。
これらの微粒子の中でも、粒子径が2.5μm以下のものは、「PM2.5」と言われています。
大気中のSPMは日射をさえぎる効果があるので、大気汚染の改善によってSPMが減少して、日射量が増えたというのは、何となく納得できるような気もします。
ただ、この論文の内容だけでは少し物足りないので、データを検証してみることにしました。
東京の日射量のグラフを良く見ると、いくつか気になる所があります。
まず、グラフ中央付近の1994年を境に、日射量が一段階増加しているように見えます。
ここで何があったか調べると、ちょうど平成5~6年(1993~1994年)頃から、ディーゼル車の排ガス規制が厳しくなったようです。
これは、横浜市環境創造局のサイト から引用したグラフです。
東京都区部(緑色)の線を見ると、1993年にSPMの濃度が急低下しています。
おそらくこれは、排ガス規制によるものと思われます。
これによって、1994年以降、東京の日射量が増加した可能性は十分ありそうです。
次のグラフは、国立環境研究所 の東京都における光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質濃度 というレポートから引用したグラフです。
このグラフを見ると、1981年頃から1988年頃にかけてSPMが増加しています。
日射量のグラフで同じ時期を見ると、上下のブレはありますが、日射量が減少傾向です。
SPMの増加時期と日射量の減少時期が一致しています。
次のグラフは、東京都の2016年度大気汚染状況の測定結果について のページの「年平均濃度の経年変化」から引用したグラフです。
このグラフから、2013~14年にPM2.5が増加していることが分かります。
日射量のグラフを見ると、2013年をピークにその後日射量が減少していますが、このPM2.5の増加が原因かもしれません。
福岡の日射量のグラフには、特徴的な点があります。
2008年から2012年にかけて、日射量が毎年低下していますが、この頃は九州でSPMやPM2.5の濃度が上昇した時期だったようです。
明確な根拠は見つけられませんでしたが、この時期の日射量の低下は、中国からの越境大気汚染の影響かもしれません。
以上のように日射量の推移とSPMのデータを見比べると、SPMの減少が日射量増加の原因という推測は、間違っていないような気がしてきます。
では、そうだとすると、今後、日射量はどうなるか?
ということが問題になってきます。
ちょっとこれから考えてみようと思います。